荒木尚志・菅野和夫・山川隆一『詳説労働契約法』(弘文堂)の第2版が発売されました。

昨年の改正で有期労働契約に関して加えられた第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)、第19条(有期労働契約の更新等)、第20条(期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止)については、約70ページにわたって解説がなされています。

第19条が判例で認められてきた雇止め法理を条文化したものであるのに対し、第18条と第20条は新たに導入された規定であり、解釈についてかなり大きな対立が見られます。

以下、本書について、以前から気になっていた論点に関する箇所を見ていきます。

第18条関連

第18条関連では、企業が無期転換前に転換後に適用される就業規則(無期転換従業員就業規則)を制定する場合(この場合、当該就業規則は第18条1項の「別段の定め」となります。)に適用されるのは第7条か、それとも第10条かという問題があります。就業規則の不利益変更となる場合は、第10条が定める諸事情を考慮し、その合理性が厳格に判断されることになります。
これに対し、転換による無期労働契約があくまで新規に締結されるものであることから(第18条はこのような形式を取っています。)、無期転換従業員就業規則が合理的であり、周知されていれば、第7条により、当該就業規則による労働条件が適用されるという解釈も主張されています。

本書では、実質的には同一の使用者との間で締結している労働契約の内容の変更の性質を持つことも否定できないとして、第10条の適用ないし類推適用が妥当としています。
この点は、既に無期転換労働者用の就業規則の制定に入っている企業にとっては、念頭に入れておくべきです。特に、有期労働者加入の組合や有期労働者の代表者との意見聴取を行っておくこと等の労使間の交渉上の不備がないことが重要となると思います。

なお、本書では、「労働者が無期転換の申込みをするにあたり、無期従業員用の就業規則に同意したときには、その同意が自由意思に出たものと認められるならば、労契法第9条本文の反対解釈により、当該労働者はその就業規則の適用を受けることになる。」としています。
企業は、無期転換の申込みを受けた際には、労働者から就業規則の同意書を徴収することが基本的な対応となると思います。

第20条関連

 

有期労働者の労働条件が「不合理と認められる」場合は当該労働条件は、本条により無効となるものとされていますが、その場合の労働条件がどうなるかが問題となります。
施行通達では、本条により無効とされた労働条件については、基本的に無期労働者の労働条件によって自動的に代替されるという補充的(直律的)効力を認めており、これを支持する学説も存在します。
この点、本書では、明文もなく裁判所が労働条件を設定するような法解釈は避けるべきであって、補充的効力自体は否定するべきとした上で、無効となった有期労働者の労働条件は、比較対照する就業規則等の合理的な解釈・適用によるべきであり、反対に、そのような就業規則等の合理的な解釈・適用ができない場合でなければ損害賠償による救済にとどめ、関係労使間のの新たな労働条件の設定を待つべきとしています(これは、菅野教授の「労働法」第10版で示された見解と同一です。)。

5月9日の記事でも触れたとおり、有期労働者から第20条違反を理由とする訴訟が提起されはじめています。これらの訴訟では本条の補充的効力の有無が大きな争点となるでしょう。

本書は、著者の顔ぶれも相俟って、実務家にとっては労働契約に関係する問題を検討する際に必読の文献だと思います。