相続・遺言を成功させるヒント
何が相続財産になるのか?
相続では、亡くなられた方(被相続人)が所有していた一切の財産(相続財産)が相続人に承継されます。ここでいう一切の財産とは、以下のようなプラスの財産(積極財産)のほかに、借金による債務や保証債務といったマイナスの財産(消極財産)も含まれます。
相続財産の例
- 不動産(借地権・借家権も含む)
- 預貯金
- 動産(自動車、家具、骨董、貴金属など)
- 株式その他の金融商品
相続財産に含まれないもの
- 生命保険金
- 遺族年金
- 祭祀財産(お墓、墓地、仏壇、位牌など。慣習上、祖先の祭祀を主宰する者が承継します。)
- 扶養請求権や慰謝料請求権などの一身専属的な財産(ただし、慰謝料は相続が認められる場合もあります。)
相続の承認・放棄とは?
相続するか否かは、各相続人が自由に決定することができます。ただし、相続放棄をするには、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(熟慮期間)以内に家庭裁判所に対する「申述」という法的手続により行う必要があります。
相続財産には消極財産も含まれます。そのため、相続財産が債務しかない場合や明らかに資産よりも債務の方が多い場合は相続放棄をすることが一般的です。ところが、通常、債権者が相続人に請求するのは相続放棄期間後です。そこで、相続人は、債権者から請求されるのを待つのではなく、自らが積極的に債務の有無を調査しなければなりません。
また、限定承認という方法を取ることで、相続した積極財産の限度で消極財産を承継することができます。限定承認の方法・期限は相続放棄と同じですが、相続人全員が共同で行う必要があります。
熟慮期間内に相続放棄や限定承認をしないと、相続を承認したものとみなされます。
このように、熟慮期間内に相続放棄または限定承認の手続を取るべきかを見極めるためにも、早期の相続財産の調査と評価が必要となります。
遺留分とは何か?
遺言によって相続財産の処分の指定が行われた場合でも、一定の相続人に残しておくべきとされる相続財産の割合を遺留分といいます。遺留分割合は、直系尊属のみが相続人の場合は被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は全体で被相続人の財産の2分の1です(被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められません)。
遺留分を侵害する遺言や生前贈与が行われた場合、遺留分を侵害された者は侵害された者に遺留分に相当する金銭(遺留分侵害額)を請求することができます(遺留分侵害額請求権)。
遺留分侵害額殺請求権は、相続の開始および侵害の事実を知った時から1年間以内に行使しないと時効消滅します。
遺留分については近年の法改正によって金銭請求権のみが認められ、遺産分割とは無関係となりました。
遺言書の検認とは?
遺言書が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」手続を取る必要があります。検認とは、裁判官が遺言書の内容を確認し、調書を作成する手続です(遺言の有効性を判断する手続ではありません。)。
遺言書を見付けたり、遺言書を保管していた者は、家庭裁判所に対して遺言書の検認を申し立てなければなりません。なお、公正証書遺言や遺言書保管制度で保管された遺言は検認の必要はありません。
遺言書の管理で注意すべきこと
遺言書が封書の場合は、検認までは開封することはできません。また、遺言書を偽造・変造したり、破棄・隠匿した者は相続人としての資格を失います。
遺言の有効性を争えるか?
遺言が有効であるためには、遺言書の記載・体裁に不備がないなどの点で形式的に有効であることのほか、本人の真意によるものなどの実質的に有効であることが必要です。例えば、筆跡などから本人が作成したといえない場合や作成当時本人の判断能力に問題があった場合は、裁判所に遺言無効確認訴訟を提起することができます。
相続人の確定で注意することは?
法定相続の場合、戸籍の記載などを元に相続人の範囲を確定します。兄弟姉妹が相続人となる場合は、被相続人の両親双方の幼少時までさかのぼって子(被相続人にとっては兄弟姉妹)をなしていないかを確認することを要します。養子(普通養子)に出された子、再婚前の子や認知した子などのような遺族の知らない相続人が存在することは、珍しくありません。
相続人全員によらない遺産分割協議は無効となりますので、相続人の範囲の確定は慎重に行いましょう。
生前贈与はどのように取り扱われるのか?
被相続人が遺言によって贈与(遺贈)した財産や生前に相続人に贈与された財産のうち、相続財産とみなされるものを特別受益といいます。生前に婚姻、養子縁組または生計の資本(「生計の資本」とは生計の基礎として有用な財産上の給付をいう。)として贈与がなされた場合は特別受益とされます。
遺産分割では、特別受益の価格を相続財産に加算して具体的相続分が算出されます(これを「持戻し」といいます。)。
具体例
相続人の兄弟A・BのうちAが生計の資本として被相続人から1000万円の生前贈与を受けていた場合、相続財産にその1000万円を加えてから相続分を計算する。Aはその法定相続分から1000万円を差し引いた額を相続することになる(マイナスとなる場合、Aの相続分はゼロになるが、生前贈与の返還義務はない。)。
持戻し前の相続財産額が7000万円の場合、A・Bそれぞれの法定相続分は7000万円+1000万円=8000万円の2分の1の4000万円となる。
Aは、法定相続分4000万円から特別受益1000万円を控除した3000万円を相続することになる。そして、Bは7、000万円からAの相続分を除いた残りの4000万円を相続する。
遺産分割の方法
具体的な相続財産の分け方は、次の3つの方法があります。
- 現物分割
- 個々の財産の形状を変更しないで分割する方法です。土地を共有化したり、分筆して相続する場合が代表例です。
- 代償分割
- 一部の相続人が法定相続分を超える額の財産を取得する代わりに、他の相続人に債務を負担させる方法です。現物分割が不可能な場合や現物分割では価値が著しく下がる場合などの場合に行われる方法です。
- 換価分割
- 相続財産を売却した後に、代金を分配する方法です。
遺産分割はいつまでにしたらよいか?
遺産分割には、いつまでにしなければならないという決まりはありません。 もっとも、遺産が共有状態のままになっていることの管理上のトラブルや関係者の記憶や証拠が失われていくことから、できるだけ早く遺産分割協議を終えることをおすすめします。
遺産分割協議の心構え
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。
相続財産や相続人が少ない場合は別として、実際にはスムーズに協議が成立することは希です。時には全く協議が進められないデッドロックの状態となることもあります。
協議が進まないケースとしては、次のものが挙げられます。
- 相続財産を一部の相続人が隠していると疑いが生じているケース
- 一部の相続人が協議に積極的でなかったり、連絡が取れないケース
- 生前贈与等の特別受益や寄与分が主張されており、各人の相続分が合意できないケース
- 分割方法に争いがあったり、分割困難な財産があるケース
いずれにしても、遺産分割協議は話し合いですから、相続人がかたくなに自分の権利を主張したのではまとまりません。相互に譲るべきところは譲るという姿勢が重要です。実務上も、法定相続分に完全にしたがった遺産分割をすることは希であり、親族間の事情にあわせた分割がなされています。
話し合いが進まない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることになります。